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代表弁理士のブログです。中小企業の皆様に役立つ経営情報、知財情報を順次掲載します。

ブログ(最新版から掲載)

商標ライセンス(第2回)

第2回 商標ライセンスとは何か
~商標を貸す仕組みと、知っておきたい2つの権利~

 前回は、商標登録は単に他人の模倣を防ぐためだけではなく、事業拡大やブランド活用にも役立つ経営資産であることをご説明しました。
 その活用方法の一つが「商標ライセンス」です。
 今回は、商標ライセンスの基本的な仕組みと、経営者の方が最低限知っておきたい「専用使用権」と「通常使用権」について解説します。

商標ライセンスとは「商標を使う許可
 商標ライセンスとは、商標権者が第三者に対して商標の使用を認めることです。商標権は、本来であれば権利者だけが使用できる権利です。
 しかし、事業上の必要から他人に使用を認めることがあります。
例えば、
• フランチャイズ加盟店に店名を使用させる
• 子会社に同じブランドを使用させる
• 販売代理店にブランド名を表示させる
• 製造委託先に商標を付した商品を製造させる
といったケースです。
商標権者が許可を与えることで、相手方は適法に商標を使用できるようになります。これが商標ライセンスです。

実は多くの企業がライセンスを行っている
 「うちはライセンス事業などやっていない」
 そう考える経営者の方も少なくありません。
 しかし実際には、意識しないままライセンスに該当する行為を行っている企業は数多くあります。
例えば、社長個人が商標権者になっているケースです。
 会社設立前に商標登録を行い、その後法人化したため、商標権は個人名義のままになっていることがあります。
 この場合、会社が商標を使用するには、本来は権利者である社長から使用許諾を受ける必要があります。
 また、グループ会社や関連会社に商標を使わせている場合も同様です。「同じグループだから問題ない」と思われがちですが、法律上は別人格です。
 商標の利用関係を整理しておくことが望ましいケースも少なくありません。

商標ライセンスには2種類ある
 商標法上、使用許諾には大きく分けて二つの形態があります。
それが、
• 専用使用権
• 通常使用権
です。
 まずはイメージから理解しましょう。
専用使用権
専用使用権とは、特定の範囲において、その相手だけが商標を使える権利です。
例えば、「東京都内でこの商標を使えるのはA社だけ」というような契約を結ぶことがあります。
この場合、商標権者自身であっても、その範囲では自由に商標を使用できなくなります。
つまり、非常に強い権利です。
不動産に例えるなら、特定の部屋を一人に専属で貸している状態に近いといえます。
通常使用権
これに対し、通常使用権は一般的な使用許諾です。
商標権者は引き続き商標を使用できますし、他の企業にも使用を許諾できます。
不動産に例えると、共有スペースの利用許可に近いイメージです。
実務上は、ほとんどのケースが通常使用権によるライセンスです。
中小企業においても、まず問題になるのはこちらです。

中小企業がまず知っておくべきこと
 経営者の方がまず理解しておくべきなのは、「契約をしなければ通常使用権が存在しない」ということではありません。
 むしろ重要なのは、「誰がどの範囲で使えるのかを明確にする」という点です。
例えば、
• 商品だけに使えるのか
• サービスにも使えるのか
• 全国で使えるのか
• 特定地域だけなのか
• インターネット広告にも使えるのか
といった条件が曖昧だと、後々トラブルになることがあります。

 実際の紛争では、「そんな使い方まで認めた覚えはない」「当然認められていると思っていた」という双方の認識の食い違いが原因となるケースが少なくありません。

なぜ口約束では危険なのか
 中小企業では、「長年の取引先だから」「親族の会社だから」「グループ会社だから」という理由で、正式な契約書を作成しないことがあります。
 しかし、事業が順調な間は問題が表面化しなくても、関係が悪化した途端に問題が発生します。
例えば、
• 契約終了後も商標を使い続ける
• 類似の商標を勝手に出願する
• 商標を利用して競合事業を始める
といったケースもあります。

商標はブランドそのものです
 ブランドを守るためには、信頼関係だけでなく契約によるルール作りも必要です。
 ライセンス契約はブランド管理の第一歩
 商標ライセンスというと、「商標を貸して使用料をもらう仕組み」というイメージを持たれる方が多いかもしれません。
 しかし実務上は、それ以上に、「ブランドを適切に管理する仕組み」という意味合いが重要です。
 誰が、どこで、どのように商標を使うのか。
 これを明確にすることが、ブランド価値を維持する第一歩になります。

 次回予告
 今回は商標ライセンスの基本的な仕組みと、専用使用権・通常使用権の違いについて解説しました。
 次回は、「フランチャイズだけではない商標ライセンス活用法」をテーマに、中小企業が実際にどのような場面で商標ライセンスを活用できるのか、具体例を交えながらご紹介します。
 「うちの会社にも関係があるのだろうか」と思われている経営者の方こそ、ぜひご覧いただければと思います。

2026年06月12日

商標ライセンス(第1回)

第1回 商標登録しただけではもったいない
~中小企業こそ知っておきたい商標ライセンスという考え方~

「商標登録をしました」「商標権を取りました」
 中小企業の経営者の方から、このようなお話を伺うことがあります。確かに、商標登録は重要です。自社の商品名やサービス名、会社名などを守るための有効な手段です。
 しかし、商標登録の目的は「他人に真似されないようにすること」だけではありません。
 実は、商標は会社の重要な経営資産であり、活用次第では事業拡大や収益向上にも役立てることができます。
 その代表的な方法が「商標ライセンス」です。
 今回から数回にわたり、中小企業経営者の皆様に向けて、商標ライセンスの基礎知識や活用方法について解説していきます。
 第1回では、まず「商標ライセンスとは何か」「なぜ中小企業に関係があるのか」についてご説明します。

商標は会社の財産である
 会社には様々な財産があります。現金や預金、土地や建物、機械設備などは分かりやすい財産です。
 一方で、目には見えない財産もあります。技術、ノウハウ、顧客との信頼関係、そしてブランドです。
例えば、皆様の会社の商品やサービスが市場で評価されているとします。
 お客様が商品を選ぶ際、「この会社の商品だから安心だ」と思って購入しているのであれば、その会社名や商品名には価値があります。
 その価値を法的に保護するのが商標権です。
 商標登録によって、その名称やロゴを独占的に使用できるようになります。つまり商標権は、会社が保有する知的財産の一つなのです。

商標ライセンスとは何か
 商標ライセンスとは、簡単に言えば、「自分の商標を他人に使わせること」です。
 もちろん無条件ではありません。使用する範囲や期間、条件などを契約で定めたうえで利用を認めます。
例えば、
• フランチャイズ加盟店に店舗名を使用させる
• 販売代理店にブランド名を使用させる
• 子会社や関連会社に同じブランドを使用させる
• 製造委託先に商標を付した商品を製造させる
といったケースがあります。
 実は、多くの企業が知らないうちに商標ライセンスに近いことを行っています。しかし、契約や管理が不十分なまま運用している例も少なくありません。

中小企業には関係ないと思っていませんか
 商標ライセンスという言葉を聞くと、「大企業の話だろう」「有名ブランドだけの話ではないか」と思われる方もいるかもしれません。
 しかし、実際には中小企業ほど関係があります。
 例えば、地方で成功している飲食店があるとします。別の地域で同じ屋号を使って店舗展開したい場合、商標ライセンスが必要になることがあります。
 また、家族経営から法人化し、別会社を設立した場合にも商標の利用関係を整理する必要があります。さらに、販売代理店や業務委託先に自社ブランドを使用させるケースもあります。
 このような場面では、企業規模に関係なく商標ライセンスの問題が生じます。むしろ中小企業の方が、人的なつながりや信頼関係を前提として進めてしまい、「契約書を作っていなかった」「誰がどの範囲で使ってよいのか決めていなかった」という問題が発生しやすい傾向があります。

商標を貸すことで何が得られるのか
 商標ライセンスのメリットは大きく分けて三つあります。
1. 事業拡大がしやすくなる
 自社だけで全国展開するには限界があります。しかし、他社と協力しながらブランドを展開すれば、より広い地域や市場に進出できます。商標ライセンスは、ブランドを活用した事業拡大の手段の一つです。
2. 収益源を増やせる
 ライセンス契約によって使用料(ロイヤルティ)を受け取ることがあります。商品やサービスを直接販売しなくても、ブランドそのものが収益を生み出す可能性があります。
 もちろん、すべての企業がすぐにロイヤルティ収入を得られるわけではありません。しかし、自社ブランドに価値が生まれれば、新たな収益源となる可能性があります。
3. ブランド価値を高められる
 適切な管理のもとでライセンス展開を行えば、ブランドの認知度向上につながります。ブランドが広く知られるようになれば、本業にも好影響を与える可能性があります。

ただし「貸せばよい」わけではない
 一方で、商標ライセンスにはリスクもあります。
例えば、
• 品質の低い商品にブランド名を付けられる
• 契約終了後も使われ続ける
• 使用料の支払いを巡って争いになる
• 商標権者の管理が不十分になる
といった問題が発生することがあります。
 ブランドは築くのに長い時間がかかりますが、失うのは一瞬です。そのため、商標ライセンスでは契約や管理が極めて重要になります。

まずは「守る商標」から「活かす商標」へ
 商標というと、
「登録するもの」
「侵害されたときに使うもの」
というイメージを持たれがちです。
 もちろん、それも重要な役割です。
 しかし、商標は守るためだけの権利ではありません。事業を広げるためのツールであり、会社のブランド価値を高めるための経営資産でもあります。

今後の連載では、
• 商標ライセンスの仕組み
• ライセンス契約のポイント
• ロイヤルティの考え方
• グループ会社や代理店で利用する場合の注意点
• 不使用取消審判との関係
などについて、実務に即して解説していきます。

2026年06月05日

商標:不使用取消審判(第11回 最終回)

第11回:10年後も守り抜くために。中小企業が実践すべき商標管理術

 これまで見てきたとおり、不使用取消審判は「守り」と「攻め」の双方に関わる制度です。商標法第50条は、継続して3年以上使用されていない商標の取消しを認めており、この前提に立てば、商標は登録しただけでは維持できません。
 中小企業にとって商標は、継続的に管理すべき経営資産であり、その運用次第で強くも弱くもなります。

1.商標は取得後から管理が始まる
 商標実務において最も重要な前提は、「登録がゴールではない」という点です。
(1)使用しなければ取消しの対象となる
 商標法第50条により、3年以上の不使用は取消事由となります。
(2)使用していても証明できなければ維持できない
 不使用取消審判では、使用事実の立証責任は商標権者側にあります。証拠が不十分であれば、実際に使用していても取消しが認められる可能性があります。
(3)実態と登録内容の乖離がリスクになる
 事業内容や表示態様の変化により、指定商品・役務や登録商標と実際の使用との間にズレが生じると、適切な権利行使や防御が困難になります。

2.定期的な商標棚卸しの実施
 実務上、リスク管理として有効なのが定期的な棚卸しです。少なくとも年1回程度の確認が望まれます。
(1)使用中の商標の確認
 現在のビジネスで実際に使用している商標を洗い出し、登録内容と一致しているかを確認します。
(2)未使用商標の把握
 使用していない商標について、不使用取消審判のリスクがないかを検討します。
(3)登録内容との整合性チェック
 指定商品・役務の範囲と実際の事業内容との対応関係を確認し、必要に応じて補強出願を検討します。

3.事業変化に応じた見直し
 中小企業では事業環境の変化が頻繁に生じるため、商標もそれに連動して見直す必要があります。
(1)新規事業への対応
 新たな商品・サービスについて、既存の登録でカバーできるか、追加出願が必要かを検討します。
(2)ブランド変更への対応
 ロゴや名称を変更した場合、従前の登録のままで足りるか、新規出願が必要かを判断します。
(3)廃止ブランドの整理
 使用予定のない商標は、維持の必要性を見直します。

4.使用証拠の継続的な蓄積
 不使用取消審判における最大の実務ポイントは「証拠」です。証拠は後から集めるのではなく、日常的に蓄積する体制が必要です。
(1)日付の明確化
 パンフレット、広告、資料等には作成・配布時期が分かるように日付を付すことが重要です。
(2)ウェブ情報の保存
 自社ウェブサイトやECサイトの表示内容を定期的に保存し、使用時期と内容を記録します。
(3)取引書類の整理
 請求書、納品書、契約書等により、商標と商品・役務の提供との関係を裏付けます。
(4)使用状況の記録
 商品パッケージや店舗表示など、実際の使用態様を写真等で記録しておきます。

5.ライセンス管理の徹底
 他社に商標を使用させる場合には、特許庁の審判実務上も、適切な管理がされているかが重視されます。
(1)使用許諾契約の締結
 子会社、フランチャイズ、代理店等に使用させる場合は、必ず書面による契約を締結します。
(2)使用条件の明確化
 使用範囲、対象商品・役務、期間等を具体的に定めます。
(3)実際の使用との一致
 契約内容と現実の使用態様が一致していることを確認し、証拠として残せる状態にしておきます。

6.不要商標の整理
 商標は保有しているだけでもリスクとコストが発生します。
(1)管理コストの発生
 更新費用や管理負担が継続的に生じます。
(2)不使用取消の対象となるリスク
 使用していない商標は、第三者から取消しを請求される可能性があります。
(3)戦略的な整理の必要性
 使用予定のない商標については、維持の必要性を見極め、整理することも合理的な経営判断です。

7.専門家との連携
 商標管理を適切に行うためには、弁理士との連携が重要です。
(1)事前相談の活用
 新規事業やブランド変更の段階で相談することで、後戻りのない対応が可能となります。
(2)定期的なレビュー
 棚卸しやポートフォリオの見直しを専門家と共同で行うことで、見落としを防ぎます。
(3)パートナーとしての関係構築
 単なる手続代理ではなく、経営判断を支援するパートナーとして活用することが重要です。

8.ブランドと商標の関係
 商標は単なる登録上の権利ではなく、ブランドの基盤そのものです。
(1)識別力の源泉
 商標があることで、自社の商品・サービスが市場で識別されます。
(2)信頼の蓄積
 継続的な使用により、品質や信用が商標に蓄積されます。
(3)継続使用の重要性
 商標は正しく使い続けることでのみ、その価値と法的保護が維持されます。

9.実務上の基本行動
 最後に、中小企業が直ちに実践すべき基本事項を整理します。
(1)使用状況の確認
 各商標について、実際に使用しているかを定期的に確認します。
(2)証拠管理の習慣化
 日付、取引、使用態様を意識した記録を日常業務に組み込みます。
(3)変化時の早期対応
 事業内容やブランドに変化があった場合には、速やかに専門家へ相談します。

10.まとめ
 不使用取消審判は、特別な場面に限られる制度ではなく、日常の事業活動と密接に関係しています。
① 使用しているか
② 証明できるか
③ 適切に管理されているか
 この3点を継続的に意識することで、商標リスクは大きく低減されます。
商標を単なる手続ではなく経営資産として捉え、継続的に管理することが、10年後もブランドを守り抜くための鍵となります。

本記事についてのご相談
 「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

    弁理士 矢口和彦事務所
         所長 弁理士  矢 口 和 彦

2026年05月29日

商標:不使用取消審判(第10回)

第10回:攻めの活用術:邪魔な他社商標を排除する


 不使用取消審判は、単に自社の商標を守るための制度ではありません。実務においては、自社の事業展開を加速させるために、他社の未使用商標という“見えない障壁”を取り除くための有力な手段として活用されています。
商標法第50条は、「継続して3年以上日本国内で使用されていない登録商標は、取消しの対象となる」というルールを定めており、この原則を戦略的に用いることが重要です。
1.不使用取消審判が有効となる場面
 不使用取消審判は、次のような経営判断の場面で検討されます。
(1) 新ブランド立ち上げ時の障害除去
 先行登録商標が存在するものの、実際には使用されていない可能性がある場合、その商標が参入障壁となります。このようなケースでは、不使用取消審判により障害を排除できる可能性があります。
(2) 事業拡大時の制約解消
 既存の登録商標が広範な指定商品・役務をカバーしている場合、実際には使われていない分野まで占有されていることがあります。この場合、未使用部分の取消しにより進出余地を確保できます。
(3) ネーミングの自由度の回復
 市場で使われていないにもかかわらず、登録だけが残っている商標が存在することで、ネーミングの選択肢が不当に制限されることがあります。このような“棚ざらし商標”も対象となり得ます。
2.事前調査の重要性
 不使用取消審判は、請求すれば必ず成功するものではありません。特許庁の審理では、被請求人(商標権者)が使用事実を証明すれば維持されるため、請求前の調査が極めて重要です。
(1) 登録内容の確認
 指定商品・役務の範囲を正確に把握し、どの範囲について取消しを狙うのかを明確にします。
(2)使用実態のリサーチ
 ウェブサイト、ECサイト、店舗、広告、業界情報などから、実際の使用状況を調査します。
(3)仮説の構築
 「使用されていない可能性が高いか」という合理的な見込みを持つことが重要です。
 なお、請求人側が不使用を立証する必要はなく、商標法第50条の構造上、使用の立証責任は権利者側にありますが、無謀な請求は避けるべきです。
3.不使用の兆候の見極め
 実務上、不使用の可能性を示す兆候としては、以下のような事情が参考になります。
① 公式媒体に該当商品・役務の記載がない
② 過去の使用は確認できるが現在の活動が見えない
③ 市場流通や業界内での認知が確認できない
④ 登録から長期間経過しているにもかかわらず実績が見えない
 これらはあくまで判断材料であり、最終的な結論は審判における証拠によって決まります。
4.交渉と審判の使い分け
 実務では、「交渉」と「審判」のどちらを選択するか、あるいは組み合わせるかが重要な戦略判断となります。
(1) 交渉(譲渡・ライセンス)の特徴
 迅速な解決や確実な権利確保が期待でき、関係性を維持しやすい点がメリットです。
(2)審判の特徴
 相手の同意がなくても進められ、比較的低コストで、かつ特定範囲のみを対象とすることが可能です。
(3)実務上の併用戦略
 不使用取消審判の請求を背景とした交渉、いわゆる「圧力としての審判」を活用するケースも多く見られます。
5.部分取消という戦略的手段
 不使用取消審判の大きな特徴は、指定商品・役務ごとに取消しが可能である点です(商標法第50条)。
(1) ピンポイントでの排除
 商標全体ではなく、使用されていない分野のみを狙い撃ちできます。
(2)競争戦略としての活用
 競合他社の将来的な事業展開を制約する手段としても機能します。
6.コストと期間の現実
 経営判断としては、費用対効果の検討が不可欠です。
(1) 審理期間
 一般に数か月から1年程度を要します(事案により変動)。
(2)費用
 譲渡交渉に比べて低額となる場合もありますが、代理人費用や証拠収集コストも考慮が必要です。
(3)総合判断の必要性
 単なる費用だけでなく、ビジネス機会の損失やタイミングも含めて判断することが重要です。
7.リスクの把握
 攻めの手段である以上、一定のリスクも伴います。
(1) 相手方の警戒
 審判請求により交渉が難航する可能性があります。
(2)使用事実の発覚
 実際には使用されていた場合、審判で維持されるリスクがあります。
(3)関係性の悪化
 同業他社との関係に影響を及ぼす可能性もあります。
8.制度の本質と経営への示唆
 不使用取消審判の本質は明確です。
 「使用されていない商標は維持できない」という商標法の基本原則に基づく制度です。
 この原則を踏まえれば、
① 不要に他社権利に萎縮する必要はない
② 正当な市場参入の余地は制度的に確保されている
ということが理解できます。
9.守りと攻めの一体的理解
 不使用取消審判は、自社商標を守るための知識であると同時に、他社商標に対して攻めるための知識でもあります。
 他社の弱点は、そのまま自社のリスクにもなり得ます。
 したがって、制度を正確に理解し、適切に使いこなすこと自体が、中小企業にとっての競争力の一つとなります。

本記事についてのご相談:
 「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

     弁理士 矢口和彦事務所
         所長 弁理士  矢 口 和 彦

2026年05月22日

商標:不使用取消審判(第9回)

第9回:戦略的「駆け込み使用」と「再出願」の罠

1.駆け込み使用に関する基本ルール
(1)法的枠組み(商標法第50条第2項)
 不使用取消審判においては、審判請求の登録前3か月以内の使用は、一定の場合を除き考慮されないとされています。
(2)制度趣旨
 ① 不使用状態の商標を形式的に復活させる行為の防止
 ② 審判制度の実効性の確保
(3)実務上の帰結
 審判請求直前に行われた「対策目的の使用」は、原則として防御手段になりません。
________________________________________
2.「3か月ルール」の意味(1)なぜ直前使用が制限されるのか
 仮に制限がなければ、
 ① 審判の兆候を察知して一時的に使用する
 ② 形式的な取引を行い証拠を作出する
 といった行為が可能となります。
(2)法の考え方
 このような行為を排除するため、「直前の使用は原則として信用しない」
 という前提が置かれています。
________________________________________
3.例外的に考慮される使用
(1)例外の位置付け
 すべての直前使用が否定されるわけではなく、例外的に考慮される場合があります。
(2)典型例
 ① 従前から継続していた通常の営業活動の一環としての使用
 ② 審判請求を知らずに行われた通常の取引
(3)判断のポイント
 使用の動機・経緯に照らし、「審判回避目的ではない」と認められるかが重要となります。
________________________________________
4.形式的使用のリスク
(1)典型的な対応例
 ① 少量のみ製造・販売
 ② 関係者への販売
 ③ 領収書等の作成
(2)問題点
 これらは、
 ① 取引の実質性に乏しい
 ② 継続性が認められない
 ③ 商業的実態が希薄
 と評価される可能性があります。
(3)実務上の評価
 単なる証拠作出目的の行為は、商標法上の「使用」として否定されるリスクが高いといえます。
________________________________________
5.審判請求のタイミングと予測困難性
(1)審判請求の特性
 ① 請求時期は第三者の判断に委ねられる
 ② 事前に把握することは困難
(2)実務上の問題
 ① 水面下で準備されることが多い
 ② 気付いた時には既に請求されている場合がある
(3)結論
 「請求されそうになったら使用する」という前提は、実務上成立しません。
________________________________________
6.再出願による対応の検討
(1)再出願の可否
 同一又は類似の商標について再出願すること自体は可能です。
(2)期待される効果
 登録が認められれば、新たな商標権を取得することができます。
________________________________________
7.再出願のリスクと限界
(1)権利の空白期間
 取消しから再登録までの間、権利が存在しない期間が生じます。
(2)先願主義の影響
 第三者が先に出願した場合、当該商標を取得できなくなる可能性があります。
(3)信用の非承継
 新たな登録は別個の権利であり、従前の使用実績や信用がそのまま法的に承継されるわけではありません。
(4)実務上の評価
 再出願は補完的手段にすぎず、既存権利の維持に代わるものではありません。
________________________________________
8.実務上の基本戦略
(1)継続的使用の確保
 商標の使用を中断させず、空白期間を生じさせないことが最も重要です。
(2)実態を伴う運用
 ① 実際の取引と結び付ける
 ② 商品・役務との関係を明確にする
(3)証拠の継続的蓄積
 日常的に使用証拠を保存し、いつでも立証できる状態を維持します。
(4)権利の整理
 使用予定のない商標については、戦略的に整理することも検討すべきです。
________________________________________
9.まとめ
(1)駆け込み対応の限界
 ① 直前使用は原則として考慮されない
 ② 形式的使用は否定されやすい
(2)再出願の位置付け
 ① 新たな権利取得の手段ではある
 ② 既存権利の代替とはならない
(3)最も重要な対応
 不使用取消審判に対する最も確実な対策は、平時から適法かつ継続的に商標を使用することに尽きます。
 制度上、「抜け道」に依拠した対応は通用しにくく、日常的な使用と証拠管理こそが実効的な防御手段となります。

本記事についてのご相談:
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 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

   弁理士 矢口和彦事務所
         所長 弁理士  矢 口 和 彦

2026年05月15日
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