商標:不使用取消審判(第9回)

第9回:戦略的「駆け込み使用」と「再出願」の罠

1.駆け込み使用に関する基本ルール
(1)法的枠組み(商標法第50条第2項)
 不使用取消審判においては、審判請求の登録前3か月以内の使用は、一定の場合を除き考慮されないとされています。
(2)制度趣旨
 ① 不使用状態の商標を形式的に復活させる行為の防止
 ② 審判制度の実効性の確保
(3)実務上の帰結
 審判請求直前に行われた「対策目的の使用」は、原則として防御手段になりません。
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2.「3か月ルール」の意味(1)なぜ直前使用が制限されるのか
 仮に制限がなければ、
 ① 審判の兆候を察知して一時的に使用する
 ② 形式的な取引を行い証拠を作出する
 といった行為が可能となります。
(2)法の考え方
 このような行為を排除するため、「直前の使用は原則として信用しない」
 という前提が置かれています。
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3.例外的に考慮される使用
(1)例外の位置付け
 すべての直前使用が否定されるわけではなく、例外的に考慮される場合があります。
(2)典型例
 ① 従前から継続していた通常の営業活動の一環としての使用
 ② 審判請求を知らずに行われた通常の取引
(3)判断のポイント
 使用の動機・経緯に照らし、「審判回避目的ではない」と認められるかが重要となります。
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4.形式的使用のリスク
(1)典型的な対応例
 ① 少量のみ製造・販売
 ② 関係者への販売
 ③ 領収書等の作成
(2)問題点
 これらは、
 ① 取引の実質性に乏しい
 ② 継続性が認められない
 ③ 商業的実態が希薄
 と評価される可能性があります。
(3)実務上の評価
 単なる証拠作出目的の行為は、商標法上の「使用」として否定されるリスクが高いといえます。
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5.審判請求のタイミングと予測困難性
(1)審判請求の特性
 ① 請求時期は第三者の判断に委ねられる
 ② 事前に把握することは困難
(2)実務上の問題
 ① 水面下で準備されることが多い
 ② 気付いた時には既に請求されている場合がある
(3)結論
 「請求されそうになったら使用する」という前提は、実務上成立しません。
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6.再出願による対応の検討
(1)再出願の可否
 同一又は類似の商標について再出願すること自体は可能です。
(2)期待される効果
 登録が認められれば、新たな商標権を取得することができます。
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7.再出願のリスクと限界
(1)権利の空白期間
 取消しから再登録までの間、権利が存在しない期間が生じます。
(2)先願主義の影響
 第三者が先に出願した場合、当該商標を取得できなくなる可能性があります。
(3)信用の非承継
 新たな登録は別個の権利であり、従前の使用実績や信用がそのまま法的に承継されるわけではありません。
(4)実務上の評価
 再出願は補完的手段にすぎず、既存権利の維持に代わるものではありません。
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8.実務上の基本戦略
(1)継続的使用の確保
 商標の使用を中断させず、空白期間を生じさせないことが最も重要です。
(2)実態を伴う運用
 ① 実際の取引と結び付ける
 ② 商品・役務との関係を明確にする
(3)証拠の継続的蓄積
 日常的に使用証拠を保存し、いつでも立証できる状態を維持します。
(4)権利の整理
 使用予定のない商標については、戦略的に整理することも検討すべきです。
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9.まとめ
(1)駆け込み対応の限界
 ① 直前使用は原則として考慮されない
 ② 形式的使用は否定されやすい
(2)再出願の位置付け
 ① 新たな権利取得の手段ではある
 ② 既存権利の代替とはならない
(3)最も重要な対応
 不使用取消審判に対する最も確実な対策は、平時から適法かつ継続的に商標を使用することに尽きます。
 制度上、「抜け道」に依拠した対応は通用しにくく、日常的な使用と証拠管理こそが実効的な防御手段となります。

本記事についてのご相談:
 「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

   弁理士 矢口和彦事務所
         所長 弁理士  矢 口 和 彦

2026年05月15日