商標ライセンス(第5回)
第5回 なぜ商標ライセンス契約書が必要なのか
~口約束では守れないブランドを守るために~
これまでの連載では、商標ライセンスの仕組みや活用方法、ライセンス料の考え方について解説してきました。商標ライセンスは事業拡大やブランド活用に役立つ仕組みです。
しかし、その一方で多くのトラブルも発生しています。そして、その原因の多くは商標法そのものではなく、「契約内容が曖昧だった」という点にあります。
今回は、なぜ商標ライセンス契約書が必要なのか、また契約書でどのような事項を定めておくべきなのかについて解説します。
「信頼関係があるから大丈夫」は本当か
中小企業では、
• 長年の取引先
• 親族の会社
• 子会社
• 昔から付き合いのある事業者
との間で商標を利用させるケースがあります。
その際、「お互いに信用しているから契約書は不要」と考えることがあります。もちろん、良好な関係が続いている間は問題にならないかもしれません。
しかし、契約書が本当に必要になるのは、関係が悪化したときです。
実際のトラブルでは、「そんな話は聞いていない」「当然認められていると思っていた」という認識の違いが原因になることが少なくありません。
契約書は相手を疑うためのものではありません。後日の誤解を防ぐためのものです。
最も多いトラブルは「どこまで使ってよいのか」
例えば、「商標を使ってもよい」という合意だけをしていたとします。
すると、
• 商品だけに使えるのか
• サービスにも使えるのか
• ホームページにも使えるのか
• SNS広告にも使えるのか
• 全国で使えるのか
といった問題が発生します。
権利者は限定的に許可したつもりでも、利用者は広く許可されたと考えていることがあります。こうした認識のずれは、契約書によって防ぐことができます。
契約書で定めたい基本事項
商標ライセンス契約では、少なくとも次の事項を検討する必要があります。
1. どの商標を対象とするのか
商標登録番号を明記することが一般的です。複数の商標を保有している場合は、対象を明確にしておかなければなりません。
2. 何に使用できるのか
商品なのか。サービスなのか。あるいは両方なのか。使用対象を明確にしておくことが重要です。
3. どこで使用できるのか
全国で使えるのか。特定地域だけなのか。インターネット上での利用をどう考えるのか。事業内容によって検討が必要です。
4. いつまで使用できるのか
期間を定めるのか。更新を認めるのか。契約終了後はどうなるのか。こうした点も重要です。
5. ライセンス料をどうするのか
有償か無償か。有償であれば、
• 固定額
• 売上歩合
• 最低保証額
などの条件を定めます。
見落とされがちな品質管理
商標ライセンスで特に重要なのが品質管理です。
ブランドの価値は、お客様からの信用によって成り立っています。仮にライセンシーが品質の低い商品やサービスを提供すれば、傷つくのはブランドです。
例えば、
• 商品品質の基準
• 店舗運営の基準
• 広告表現のルール
などを定めておくことがあります。
ブランドは企業の信用そのものです。そのため、商標ライセンス契約は単なる使用許可契約ではなく、ブランド管理契約という側面も持っています。
契約終了後のルールも重要
実際のトラブルで多いのが契約終了後の問題です。
契約は終了したのに、
• 看板が残っている
• ホームページに商標が掲載されたまま
• 商品パッケージがそのまま使われている
ということがあります。
契約書では、
• いつまでに使用を停止するのか
• 在庫品をどう扱うのか
• 看板や広告物をどうするのか
なども定めておくことが望ましいでしょう。
インターネットのひな形で十分なのか
最近では、インターネット上で契約書のひな形を簡単に入手できます。もちろん参考資料としては有用です。
しかし、商標ライセンス契約は事業内容によって大きく異なります。
例えば、
• フランチャイズ
• 販売代理店
• OEM
• グループ会社利用
では、重視すべき条項が異なります。
ひな形をそのまま利用すると、自社に必要な事項が抜け落ちていることもあります。重要なのは契約書の長さではありません。自社の事業実態に合った内容になっているかどうかです。
契約書はトラブルを防ぐための投資
契約書を作成するとなると、「手間がかかる」「費用がかかる」と感じるかもしれません。
しかし、契約書がないために紛争になれば、はるかに大きな時間とコストが発生します。特に商標はブランドそのものです。
ブランドを守るための契約書は、コストではなく投資と考えるべきでしょう。
次回予告
商標ライセンス契約では、使用条件やライセンス料も重要ですが、それ以上に重要なのがブランド価値の維持です。
次回は、「品質管理を怠るとブランドは壊れる」をテーマに、商標ライセンスと品質管理の関係について解説します。
なぜ有名企業が厳格なブランド管理を行うのか。そして中小企業でも取り組むべきポイントは何か。実例を交えながらご紹介したいと思います。