著作権(第15回)著作権契約の基礎:ライセンス、譲渡、利用許諾とは?
第15回 著作権契約の基礎:ライセンス、譲渡、利用許諾とは?
はじめに
前回は、ブロックチェーンとNFTが著作権の未来に与える可能性について考察しました。今回は、著作物の利用に関する契約の基礎として、ライセンス(利用許諾)、譲渡という二つの主要な形態、そしてそれらの違いや契約を結ぶ際の注意点について解説します。
自身の著作物を他者に利用させる場合、適切な契約を結ぶことは、権利者と利用者の双方にとって非常に重要です。契約内容を明確にすることで、著作物の適正な利用を促進し、将来的な紛争を予防することができます。本稿では、著作権契約の基本的な考え方、ライセンス契約と譲渡契約の違い、そして契約締結時に注意すべきポイントについて解説します。
1. 著作権契約の基本的な考え方
(1)契約自由の原則
著作権に関する契約も、民法の原則である契約自由の原則が適用されます。これは、当事者が自由に契約の内容を決定できるという原則です。したがって、著作物の利用に関する条件は、当事者間の合意によって自由に定めることができます。
(2)契約の重要性
口頭での合意も有効ですが、後々のトラブルを避けるため、著作権に関する契約は書面で明確に交わすことが非常に重要です。契約書には、利用の範囲、期間、対価、条件などを具体的に記載する必要があります。
2. ライセンス(利用許諾)契約
(1)ライセンス契約とは
ライセンス契約(利用許諾契約)とは、著作権者が、他者に対して、自身の著作物の利用を許諾する契約です。この契約によって、利用者は定められた範囲内で著作物を利用することができますが、著作権そのものは依然として著作権者に留まります。
① 許諾される権利:複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権など、著作権に含まれる様々な支分権の一部または全部を許諾することができます。
② 利用の範囲:ライセンス契約では、利用の目的、地域、期間、方法、回数などを具体的に定めることができます。例えば、「日本国内でのみ、1年間、ウェブサイトに掲載する目的で複製・公衆送信を許諾する」といった形で規定します。
③ 対価:著作物の利用に対して、利用者は著作権者に対して対価(ライセンス料)を支払うことが一般的です。対価の算定方法(定額、従量制など)や支払い条件も契約で定めます。
(2)ライセンス契約の種類
ライセンス契約には、様々な種類があります。
① 独占的ライセンス:特定の利用者に対して、特定の範囲内で独占的に著作物を利用する権利を許諾する契約です。著作権者は、その範囲内では他の第三者にライセンスしたり、自ら利用したりすることも原則としてできなくなります。
② 非独占的ライセンス:複数の利用者に対して、同一の範囲内で著作物を利用する権利を許諾する契約です。著作権者は、他の第三者にライセンスしたり、自ら利用したりすることも可能です。
③ サブライセンス:ライセンスを受けた利用者が、さらに第三者に対して著作物の利用を許諾する権利を認める契約です。原則として、サブライセンスを行うには著作権者の事前の同意が必要です。
(3)ライセンス契約締結時の注意点
① 許諾する権利の範囲を明確にする:どの支分権を、どのような目的、方法、範囲で許諾するのかを具体的に記載します。 ② 利用期間と地域を明確にする:利用できる期間や地域を限定する場合は、明確に記載します。
③ 対価と支払い条件を明確にする:ライセンス料の金額、算定方法、支払い時期、支払い方法などを具体的に定めます。 ④ 契約解除の条件を定める:契約期間満了時の更新、中途解約の条件などを定めておくことが重要です。
⑤ 著作権表示の義務を定める:利用者に適切な著作権表示を義務付ける条項を設けることが一般的です。 ⑥ 保証条項や責任条項を定める:著作物の適法性や第三者の権利を侵害しないことなどを保証する条項や、損害賠償責任に関する条項を定めることがあります。
3. 譲渡契約
(1)譲渡契約とは
譲渡契約とは、著作権者が、自身の持つ著作権(支分権の全部または一部)を他者に移転する契約です。著作権が譲渡されると、譲受人が新たな著作権者となり、譲渡人は原則としてその著作物に対する権利を行使できなくなります。
① 譲渡の対象:著作権に含まれる支分権の全部または一部を譲渡することができます。例えば、複製権と公衆送信権のみを譲渡するといった契約も可能です。
② 対価:著作権の譲渡に対して、譲受人は譲渡人に対して対価(譲渡代金)を支払います。 ③ 著作人格権は譲渡できない:著作人格権は著作者の一身専属的な権利であるため、譲渡することはできません。
(2)譲渡契約締結時の注意点
① 譲渡する権利の範囲を明確にする:どの支分権を譲渡するのかを具体的に記載します。全部譲渡か一部譲渡かを明確にすることが重要です。 ② 対価と支払い条件を明確にする:譲渡代金の金額、支払い時期、支払い方法などを具体的に定めます。
③ 譲渡後の権利帰属を明確にする:著作権が譲受人に完全に移転することを明確に記載します。 ④ 著作人格権の不行使条項:譲渡後も譲渡人が著作人格権を行使しないことを約束する条項を設けることがあります。ただし、著作人格権そのものを放棄することはできません。
⑤ 保証条項や責任条項を定める:譲渡人が著作権を適法に保有していることなどを保証する条項や、損害賠償責任に関する条項を定めることがあります。
4. 利用許諾と譲渡の違い
ライセンス(利用許諾)と譲渡の最も大きな違いは、権利の移転の有無です。
• ライセンス: 著作権は著作権者のもとに留まり、利用者は契約で定められた範囲内で著作物を利用する権利を得ます。
• 譲渡: 著作権そのものが譲受人に移転し、譲受人が新たな著作権者となります。
どちらの契約形態を選択するかは、著作物の利用目的、期間、対価、そして著作権者が今後もその著作物に関与したいかどうかなど、様々な要素を考慮して判断する必要があります。
5. その他の関連契約
著作権に関する契約には、ライセンス契約や譲渡契約の他にも、以下のようなものがあります。
(1)出版権設定契約(著作権法第79条以下)
文芸または学術の著作物を出版する権利を設定する契約です。出版権者は、その著作物を複製・頒布する権利を専有します。
(2)著作物利用開発契約
著作物を基に新たなコンテンツや商品を開発する際に結ばれる契約です。権利の帰属や利用条件などを詳細に定める必要があります。
(3)請負・委託契約
著作物の制作を他者に依頼する際に結ばれる契約です。制作された著作物の著作権の帰属を明確に定めることが重要です。
むすび
今回は、著作権契約の基礎として、ライセンス(利用許諾)契約と譲渡契約の違い、そして契約締結時の注意点について解説しました。自身の著作物を他者に利用させる際には、これらの契約の特性を理解し、目的や条件に合わせて適切な契約を結ぶことが、権利保護と円滑な利用のために不可欠です。
契約書は、権利者と利用者の間の約束事を明確にするための重要なツールです。不明な点や複雑な条項がある場合は、専門家(弁護士や弁理士など)に相談することをお勧めします。
次回のテーマは、本ブログシリーズの最終回となる「著作権と隣接権:実演家、レコード製作者、放送事業者の権利」です。著作権と密接に関連する著作隣接権について、その内容や著作権との違いなどを解説していきます。